「QUITTING やめる力」の概要
著者:ジュリア・ケラー
- ピュリッツァー賞受賞ジャーナリスト兼小説家
- オハイオ州立大学で英文学博士号取得
- 「シカゴ・トリビューン」紙のスタッフライター、書評チーフを歴任後、ジャーナリストをやめて執筆活動に専念
参考:「QUITTING やめる力」340ページより
本書の狙い
この本の狙いは、やみくもに一つのことにこだわるのではなく、人生の目的に応じて戦略的撤退を活用するメリットを読者に気づかせることです。
昨今は「続ければ必ず成果が出る」という思想が主流で、「GRIT(グリット)」という「やり抜く力」を意味する言葉が注目されています。
しかし「QUITTING」では、今取り組んでいることを一旦やめて、別のやりたいと思ったことに取り組むことも時には重要だと述べられています。
「QUIT(クイット)」はグリットの反対の「やめる」という意味の言葉です。
ここで注意していただきたいのは、この本はグリットを完全に否定しているわけではなく、「あえてやめてみる」という戦略的撤退を活用するべきだという点です。
嫌な職場で働き続けていて「やめたいけど周りの目が気になって…」と感じている方を後押ししてくれるような内容にもなっています。
構成
本書は3部で構成されています。
第1部(第1章~第3章)
この部は「やめること」についての概要です。
自然界の動物たちは「あきらめること」が上手な本能をもっていることの説明や、神経科学の観点から「QUITTING」について分析が述べられています。
また、やめてしまうことがメディアからどういう風にみられているのか書かれており、自分の価値観を振り返ることもできるでしょう。
第2部(第4章~第6章)
続いて、なぜ「やめること」がネガティブなイメージになってしまったのか歴史をさかのぼって深堀していく章です。
章が進んでいくにつれて、「QUITTING」の悪い印象を払拭していきます。
第3部(第7章~第11章)
最後の部は「QUITTING」の具体的な実践方法です。
それぞれの章で実例を紹介しながら、将来につながるやめ方を説明しています。
人生の中で戦略的撤退を活用することで上手くいった事例がよく分かるパートです。
要約
やめることは動物の本能
人間は何かをやめたり諦めたりすることに対してネガティブなイメージを持っていますが、動物界ではそのような概念はありません。
動物にとってはいかにして生き延びるかが重要です。
本書では植物の種を食べる「フィンチ」という鳥を例に挙げて、無駄だとわかった瞬間にあきらめて別の場所へ移動する本能を解説しています。
自然界では、食べ物を得るのが難しいとき、それはお腹を満たせる可能性の高い別の場所に移動すべしという暗示なのだ。
「QUITTING 」44ページ
グリットの起源は19世紀の自助論
継続することや忍耐力が重要視されるようになったのは、1859年に作家のサミュエル・スマイルズが「自助論」を広めたからです。
「自助論」は、忍耐力は何よりも大切であり、それなしでは幸せで豊かな人生は送れないという考えを世間に広めた。
「QUITTING 」113ページ
今でも有名人をはじめとする多くに人や、多くのメディア媒体でも「あきらめないこと」にまつわるメッセージを発信しており、そのような考えが強く根付いていると本書で述べられています。
やめることは悪いことではない
先ほどのとおり、現代では「継続は力なり」と続けることが成功に不可欠な要素だとされています。
しかしそれは単なる思い込みです。
使い方さえ間違えなければ「やめること」も立派な戦略となります。
今やっていることが無駄だとわかれば別のことを始め、しっくりきたらGRITすればいいのです。
また、一度やめたことはもう一度取り組みなおすこともできます。
本書ではこれを「セミ・クイット(半やめ、一旦やめる)」と表現しています。
いったんやめるということは、こっそりさぼったり、すべきことを放置したりすることではない。
やることを減らすのではなく、増やす。
消極的になるのではなく、積極的になる。
無気力になるのではなく、臨機応変に行動するのだ。
「QUITTING 」184ページ
感想
率直な感想としてはクイットを説明するための実例紹介が多かった印象です。
実例と自分の経験を照らし合わせながら、あの時やめていたら今の人生どうだったんだろうと考えさせられました。
またこの本は、自分の人生において戦略の幅を広げるために役立つ本だと感じました。
何かの壁にぶつかったときや、他にやってみたいことができた時に今の活動を一旦やめる決断をするときに読み返したいものです。
まとめ
「継続は力なり」という思想が強い現代に逆行するような内容の本です。
もう一度念を押しておくと「クイット」が正義というわけではなく、グリットとクイットの使いどころを考えましょうと述べられています。
やめることで後悔することもあれば、やめないことで後悔することもあり、本書では「クイット」して後悔した例と「グリット」して後悔したパターンも紹介されています。
自分の取り組みを見つめなおして人生の戦略的撤退を駆使すれば、新しい道の開拓に役立つでしょう。
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