本書の概要
著者名:アン・ウーキョン
- イェール大学心理学教授
- 学内の人気講義「シンキング」の講師
- 思考バイアスに関する研究を行っている
本書の狙いと対象読者層
本書は、人々の思考から柔軟性を奪う「バイアス」を解説し、論理的思考力を向上させることが狙いです。
どんな人でも無意識の思い込みによって思考が偏ることがあり、しかも賢い人ほどそれに囚われやすいことが指摘されています。
私は全人類がこの本を読むべきではないかと感じました。
要約
本書はチャプター1~チャプター8で構成されています。
チャプター1:「流暢性」の魔力
このチャプターは、実際は難しいことを簡単にやっているのをみると「自分もできそう」と錯覚をする現象を主に解説しています。
少し知識をかじっただけで知ったかぶりをするのも同じです。
アダム・グラント氏の著書「THINK AGAIN」で述べられている、「ダニング・クルーガー効果」や「アームチェア・クォーターバック症候群」と近いものを感じますね。
この魔力から逃れるには、実際にやってみたり、他人から詳しい説明を求められることが必要だと指摘しています。
その少しかじった知識について他人と議論する場を設ければ、より思考の穴にハマらずに済むでしょう。
チャプター2:「確証バイアス」で思い込む
自分に都合のいい情報ばかりを集めてしまうバイアスについてのチャプターです。
私もこのバイアスによく振り回されて後悔することが多いですね。
このバイアスは占いでも活用されています。
例えば、占い師から「あなたは○○をすることで素敵な人と出会えるでしょう」と言われたとしましょう。
仮に素敵な人と出会えたら「占い師に言われた通り○○したから出会えたんだ」と思います。
逆に、出会えなかったら「言われた通りにしなかったから出会えなかったんだな」と都合よく解釈するでしょう。
つまり物事を正当化するような理由を見つけてしまうのです。
これを知っていてもバイアスにハマってしまうというのだから恐ろしい…
チャプター3:「原因」はこれだ!
人は「出来事Aがあると出来事Bになる」と簡単に因果関係を結び付けてしまう癖があるとこのチャプターで述べられています。
極端ですが、「私の友達Cさんを悪く言うのは、Dさんがひねくれているからだ」というのが当てはまるんじゃないでしょうか。
しかし、もしかしたらDさんはCさんに嫌なことをされたかもしれない可能性もあります。
要は原因や理由を一つに決めつけてしまう癖があるため気をつけましょうという話ですね。
チャプター4:危険な「エピソード」
ここでは、抽象的なものより具体的なエピソードのほうが人々の思考に強く干渉することが述べられています。
信憑性の怪しいサプリでも、効果を実感したという話を親しい友人から聞いたら気になりますよね。
ストーリーテリングが強力な話術だと言われる理由の一つです。
エピソードに惑わされない方法として以下の三つが解説されています。
- 大数の法則
- 平均回帰の法則
- ベイズの定理
大数の法則は、具体例やサンプルなどデータの数が多いほど信頼性が増すこと。
平均回帰の法則は、「確率は収束する」という意味に似ています。
ベイズの定理は条件付確率として本書で説明されています。
このあたりは是非実際に本文を読んでいただければ幸いです。
チャプター5:「損したくない!」で間違える
これは皆さんもご存知の方も多い「損失回避」にまつわるチャプターです。
人には「一度手にしたものを失いたくない」という心理が働きます。
本書でもこの心理がかなり強力なものであるとわかる実験が紹介されています。
シカゴハイツの実験では、無作為に選ばれた一部の教師に対して「獲得する」条件が設定された。
要は一般的なやり方にならって、生徒の成績が向上すれば年末に賞与を与えるということだ。
(中略)
無作為に選ばれた教師のグループはもうひとつあり、こちらは年初に4000ドルを受け取った。
要は「失う」条件が設定されたのだ。
「思考の穴」221~222ページ
さて、どちらの教師に教わった生徒のほうが成績が良かったでしょうか?
お察しの通り、「失う」条件を設定された教師に教わった生徒のほうが成績が高かったそうです。
人に何かをしてほしいときは、先に報酬を渡すのも一つの手段になり得るかもしれませんね。
チャプター6:脳が勝手に「解釈」する
ここでは、自分の信じることを疑わない状態になってしまう「確証バイアス」の一種が説明されています。
私は小さいころ「雷が落ちるとへそを取られる」と教えられてきて、小学生ぐらいまでは本気でビビっていた記憶があります・・・。
クリスマスにサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれると信じているのも同じですね。
(決して馬鹿にしているわけではありません)
チャプター7:「知識」は呪う
簡単にいうと、「自分が知っていることは他の人も知っているわけではない」ということです。
ジェスチャーゲームで自分がジェスチャー側の時、なかなか答えが出ないと「なんでこのジェスチャーでわからないの?」と感じるのがそれにあたります。
ここで「相手の立場になって考えればいいじゃない」と感じるでしょう。
しかし、それもほとんど意味がないと指摘されています。
ではどうすれば相手のことがわかるのか。
それは、「直接、ストレートに聞く」ことです。
事実を集めない限り、事実を正しく把握することはできない。
「思考の穴」322ページ
この文章が全てを語っています。
チャプター8:わかっているのに「我慢」できない
最後のチャプターは、人は不確実なことをさけて確実なことに我慢できずに飛びついてしまうことが述べられています。
例えば副業しようとしたとき、「今から稼げる!」とアピールされると心が揺らぎますよね。
それに飛びついたら、実は詐欺だったなんてことがあったら一大事です。
また、「不確実なことをさける」性質は「先延ばし」をする行動にも関わっていると述べられています。
みなさんは学生時代に夏休みの課題を、休みが終わる直前まで手を付けないタイプだったでしょうか?
本書によると、これは課題を先延ばしにすることでめんどくささを曖昧にできてしまうと指摘しています。
嫌でたまらない作業がもたらす苦痛は、未来にやってもいまやってもまったくおなじなのに、どういうわけか未来に行うほうがうまく対処できそうに感じる。
だから、多くの人が先延ばしにするのだ。
「思考の穴」331ページ
今のみなさんは、学生時代と比べて先延ばし癖はどう変わっているでしょうか?
私はできるだけ「嫌だけど頑張ればすぐ終わる」ことを先に済ますようにしています。
そうすると精神的にも楽になりますし、自分のやりたいことに時間を割くことも可能です。
感想
本書の長所と短所
短所
短所はチャプターの中の小見出しが非常に多いことです。
ページ数は今まで読んだ本と大差なかったですが、読み終えるまでに非常に長く感じました。
長所
自分が今までどんなバイアスに囚われていたかが明確に分かることが良いところだと思いました。
具体例が多く紹介されているので、過去の自分の状況と似ている場面が見つかり、自分の言動を振り返られるでしょう。
参考になった点、印象に残った点
一番印象に残ったところは、著者アン・ウーキョン氏と旦那さんが25年間もお互いに誤解していたエピソードです(316ページ)。
アン・ウーキョン氏は料理をするとき旦那さんの好きなものを作るようにしていました。
また、お子さんの好みが旦那さんと同じとは限らないので、パスタを2種類作ったりして工夫していました。
そしてお子さんが独り立ちした際、旦那さんはこういったそうです。
下の子が大学進学で一を出て夫婦二人だけの生活になったとき、私は夫に向かって、「これからは夕食は1種類だけでいいなんて最高」と言った。
すると夫はこう言った。
「ほんと、君と僕の好みがまったく同じでよかったね」
それを聞いた私は笑いがとまらなかった。
「思考の穴」317ページ
どんなに親しい間柄でも憶測だけでは本当に理解することは難しいんだなと感じました。
まとめ
「イェール大学集中講義 思考の穴-わかっていても間違える全人類のための思考法」は、自分が囚われていたバイアスに気づかせてくれる本です。
バイアスから逃れることは難しいですが、バイアスの存在とバイアスとの距離の取り方を知ることで冷静に物事を考えられるようになります。
この本で思考の穴を塞ぎ、広い視野を手に入れましょう。
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